行基菩薩さまは、日本の仏教の基礎を固められたお坊さまです。
(たしかに、行基菩薩さまがこの地にあらわれ、私をはげまして下さった。この海辺はみ仏の霊地にちがいない!)
お大師さまは、あらためて行基菩薩さまがあらわれた海のかなたに合掌をささげました。その時です。
パカ、パカ、パカ
坂をのぼって来る馬のひづめの音がきこえてきました。
馬の背には重い荷がつまれていました。
「ごくろうじゃな。しばらく馬を休ませなさい。」
お大師さまは馬をひく馬子に声をかけられました。馬子は、よけいなお世話とばかり、馬のたづなを引き上げながら道をいそぎます。
「お待ちな。馬は苦しいのじゃ。しばらくやすませるがよいぞ。何をつんだのじゃ、重そうじゃないか。」
とお大師さまはたずねました。
「塩鯖だよ。坊さんとは緑がないものよ。」と馬子のこたえはつっけんどんです。
「縁のあるなしはさておいて、一匹だけ私に施してくれないか。」とお大師さまは言いました。
馬子はこたえようともせず、むりやり馬をひきずりました。つかれきった、かなしい目をして馬はお大師さまをふり向き、ふり向きながら坂を登って行きます。するとお大師さまはすくっとお立ちになって、その馬に向けて大きなお声で歌をよまれました。
「大さかや、八坂さか中、鯖一つ、大師にくれで、馬の腹や(病)む」
(施しなさいって、とんでもない!)
こんなことを考えながら、坂をおりる馬子の耳にもお大師さまの歌がきこえてきました。
その歌がきこえる方を馬子がヒョイとふり向いた時のことです。バターッと馬が横だおれになって、もがきはじめました。見る見るうちに、馬のおなかが山のようにふくれ上がってくるではありませんか。
(よわったな、このままだと馬は死んじまうかも知れんな、塩鯖ぐるみもとも子もなくなるかも知れん。)
馬子はまったく途方にくれてしまいました。