四国霊場八十八ケ所めぐりは、お大師さまがおつくり下さった巡礼の道です。この道を巡礼することを“遍路”といいます。“おへんろさん”です。そして、八十八の霊場のお寺を札所といいます。
八十八の札所をつなぐと、四国をひとめぐりするようになっているのですが、このコースを四つにわけて、“発心の道場”・“修行の道場”・“菩提の道場”・“涅槃の道場”とよぶのです。まず、第一番の札所から遍路をはじめて第二十三番の薬王寺までのおまいりをすませると“発心の道場”をひとめぐりすることになるのです。
ここから、いよいよ“修行の道場”めぐりになるのですが、この間の遍路の道が八十二キロにもなる、一番ながい路のりになっているのです。最もながい遍路の道は最も美しい道でもあります。入りくんだ海辺の一本道は、急な坂につらなって、坂をこえるたびに、変った美しさの海にであうのです。
この徳島県海部郡海陽町一帯は昔から八坂八浜とよばれて来ました。このように、四国の札所をめぐる遍路の道の中で、最もながく、最も美しい八坂八浜の道は、最もけわしい道でもあったのです。
いまは国定公園になって、りっぱな道につくりかえられている八坂八浜の道は、昔は大へんな難所つづきのきびしい道でした。そのきびしい道、美しい道を、けだかいお坊さんがとおられました。いまからおよそ千二百年も昔のことです。
このお坊さまが、空海さま、お大師さまであられたのです。お大師さまはけわしい坂をのぼりつめたところで、ひと休みなさいました。すると、
「空海よ!」
誰かが呼ぶ声に、はっと目をさましたお大師さまは声がした方を見つめました。青い海の上に白い雲が浮かんでいました。その雲の間に、ひとりのお坊さまが合掌してあらわれるではありませんか。
「空海よ!わたしは行基であるぞよ。そなたは末ながく、人びとを救いつくすであろうぞ。」
その雲の中のお坊さまは行基菩薩さまであったのです。